「メービウスの環」
■Title: The Janson Directive(邦題「メービウスの環」) Author: Robert Ludlum 山本光伸訳(新潮文庫)
Robert Ludlumは「9.11」を見ずに2001.3.12に亡くなった(1927.5.25、ニューヨーク州ニューヨーク生)。著書には 「スカーラッチ家の遺産」、「ホルクロフトの盟約」、「暗殺者」、「殺戮のオデッセイ」などがある。
彼の描写には仕事と云うのはこんな風に行うのだと云う感じの職人のような丹念さがある。例えば、今回の「メービウスの環」では、『竿の端には、丈夫なハサミでバタークッキーの缶から切り取った、薄い長方形の金属板がついている。電子部品-任意波形ノイズ発生器-は、ラジオ・シャック製携帯電話の単純なトランジスターだ。…』なんて具合である。仕事はこうでなくちゃと思ってしまう(何も「殺し」も仕事と言っている訳ではありません、笑)。Raymond Chandlerが周辺の物を細やかに描写するのとはまた違った雰囲気ではあるが、どちらも私の好きなところだ。絵画で言えば…、おっと、こんなことを言っていると、どんどん逸れていくので、止めておこう。
さて、「メービウスの環」であるが、この本はRobert Ludlumの死後2002年に発表されている。主人公ポール・ジャンソンは『灰色の梳毛糸(ウーステッド)で誂えた最高級スーツでさえ、ビジネス街のジャングルに溶け込む絶好の隠れ蓑だ-かつて、緑と黒に顔を染めてベトナムのジャングルに溶け込んだように。』と云うような強面の50年配の男である。そういう彼が、『きみは、"(殺人)機械”そのものだった。』と云う呪縛、過去の記憶と葛藤しながら、平和と民主主義の希求者と言われるピーター・ノバックの救出と謎に追い立てられていく。『きみたちアメリカ人は、反米主義という観点から物事を見たことがないだろうからな。愛されることを求めるあまり、なぜ愛されないのか理解できない。…』などと云う不協和音が鳴り響くなか、このメービウスの環の如き物語は不可思議な展開を見せる。女性スパイナー、ジェシー・キンケイド(当然、若くて美人)も加わり、そのスリリングな世界は何処に行き着くのか。その果てにあるものは何か。
【追記:絵画で言えば、Francisco de Zurbaran(1598-1664、スペインバロック セビーリャ派)の静物画のような】
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